職業性皮膚疾患の現状・歴史
職業性皮膚疾患の現状
職業に従事することによって発生ないし明らかに増悪する皮膚疾患を、職業性皮膚疾患と呼んでいます。実際の産業現場では、業務遂行時に受傷した皮膚外傷・熱傷・酸やアルカリによる化学熱傷などといった災害的皮膚障害と、接触皮膚炎・ざ瘡・皮膚腫瘍・色素異常・感染症など種々の皮膚疾患(狭義の職業性皮膚疾患)に大別されます。詳細については、研究課題3の「職業性皮膚障害の実態・発生機序ならびにその予防に関する研究の追跡調査」で述べます。
職業病の中で皮膚疾患の占める割合は25〜30%と言われますが、生命を脅かす疾患でない場合が多いため、職業病として報告されない例も多く、実際にはより多くの職業性皮膚疾患が潜在している可能性があります。
職業性皮膚疾患の歴史
労働者の皮膚の徴候の観察は古くは紀元前エジプトのパピルスにも記録されており、現在より300年以上も前にRamazziniが書いた産業医学の代表的な古典であるDe Morbis Artificum Diatriba(働く人の病)にはパン焼きや粉屋の手の皮膚炎、灰汁による洗濯婦の手の皮膚炎、塩坑の坑夫の下肢の潰瘍などの職業性皮膚障害の記述があります1)。
欧州で一般に職業病が注目されるようになったのは産業革命以後で、その後機械工業、紡績工業、化学工業の進展とともに職業病への関心が高まり、特に第一次世界大戦後に職業病の調査研究が本格化していきました。
日本では1916年の工場法施行の頃から製糸女工の手指の皮膚炎などの職業性皮膚疾患の報告が見られるようになり、昭和初期の軍需産業の発展期には各産業で職業性皮膚疾患の発生が注目されるようになりました。第二次世界大戦後は金属製造業、化学工業に職業性皮膚障害の発生が多くみられました2)。
最近では外傷、熱傷などの災害的皮膚障害の頻度が高いのは製造業(機械、自動車、造船、機械部品製造などの機械工業)、建設業であり、職業性接触皮膚炎・湿疹群に関しては調理・炊事・皿洗い業と看護師や理・美容師、機械工業、農業、建設業に多く見られる報告がなされています3)。
産業構造の変遷とともに職業性皮膚障害も変化しており、作業工程の改善とともに消滅していく疾患もある一方で、新しい産業や化学物質の出現により新たな職業性皮膚障害に遭遇することもあります。
<参考文献>
1)ベルナルディーノ・ラマツィーニ著・東 敏明監訳:働く人の病,産業医学振興財団
2)永井隆吉,他編:産業皮膚科学.臨床産業医学全書4,医歯薬出版,5-8,1987
3)荒尾龍喜,他:日本災害医学会会誌 46:343-352,1998
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