第2次5カ年計画での研究目的
末梢循環障害
第1次5カ年計画の積み残した問題で解決すべき問題点の、第1は、ヨーロッパのFSBP%のcut-off値は60%であるのに対し、得られた結果では70%であった。この差は、ヨーロッパの研究者達は振動曝露中の労働者または曝露中止後まもない症例を対象としているのに対し、我々の対象者は振動曝露から離脱後、10年以上経過している症例が大分であることが原因と考えられる。今後、振動曝露中、または振動曝露から離脱後まもない症例のデーターを集積する必要性がある。しかしながら、初めから労災病院を受診する例は極めて少ないので、今後どうするのか、症例をどのように集めるのか、FSBP%が検査項目として公式に採用され全国的レベルでのデーターの集積が可能になった時点で計画すべきであろうと考える。したがって、今回は研究課題に取り上げない。
次に指摘した問題点は神経麻痺を来たす疾患がFSBP%にどのような影響をおよぼすのかの研究である。その背景には、振動曝露労働者によく見られる併発症として、頚部脊髄症、脊椎症性神経根症、絞扼性神経障害としての肘部管症候群、手根管症候群、さらには糖尿病がある。これらの疾患がFSBP%値に影響を及ぼすのか、どうか、もし前者ならば、その程度はどの程度なのかの確認が必要と考える。
頚部脊髄症、頚椎性神経根症、絞扼性神経障害(肘部管症候群、手根管症候群)、糖尿病がFSBP%に及ぼす影響
2.研究目的最終報告書の中で、ヨーロッパのFSBP%値のcut-off値は60%であるのに対し、得られた結果では70%であった。この差については上述した。次に指摘した問題は神経麻痺を来たす疾患がFSBP%値にどのような影響を及ぼすかの確認である。その背景には、振動曝露労働者によく見られる併発症として、頚部脊髄症、脊椎症性神経根症、絞扼性神経障害、さらには糖尿病がある。これらの疾患がFSBP%値に影響を及ぼすのか、及ぼさないのかを確認すること。
3.国内・国外における研究状況及び特色・独創的な点上記の疾患がFSBP%値に及ぼす影響に関する外国論文はない。国内では、頚部脊髄症がFSBP%に及ぼす影響についての那須らの発表があるのみである[4、5]。
5.対象と方法定装置がMedimatic社のstrain gauge plethysmographから、HvLab社のmultichannel Plethysmographに変更になる.その他の条件は第1次5ケ年計画と同じである。対象としては健常者群(対照者)、振動曝露労働者、頸椎症性脊髄症患者、頸椎症性神経根症、肘部管症候群、手根管症候群の患者である。
末梢神経障害
1.研究課題
振動障害の末梢神経障害の客観的評価法に係わる研究
2.研究目的
振動障害の末梢神経障害を客観的に評価することを目的とする。したがって、痛覚閾値はforce choice methodのみでvon Bekesy法による測定可能な装置がないことから測定項目から外す。
振動閾値はforce choice methodとして従来のリオン製振動覚計、von Bekesy法による測定はHvLab社の振動覚計で行う。今回の研究ではforce choice methodと、von Bekesy法による測定値との比較を行い、force choice methodでの測定はスクリーニングレベルでは認めるが、業務上外判定では、認めないと言えるかどうかの検討を行う。背景として、HvLab社の振動覚計と同等ないし、より優れた性能のvon Bekesy法を採用した振動覚計の開発をリオン社が行っており、近い将来には、国産の装置で測定可能と考えることができるからである。加齢が振動覚に及ぼす影響については諸説があるので、この点を明らかにすること。
オートモード法による電流知覚閾値の測定が振動曝露労働者の感覚機能評価目的に応用できるか否かの検討を行うこと。また、加齢に伴う閾値変化について明らかにすること。
3.対象
振動曝露労働者、頸椎症性脊髄症患者、頸椎症性神経根症、肘部管症候群、手根管症候群の患者である。
4.測定方法
振動覚閾値
リオン製振動覚計とHvLab社製のVibrotactilometerで125Hz、可能であれば62.5 Hzまたは63Hzの周波数で測定する。測定時の皮膚温は27℃以上とする。
運動・知覚神経伝導速度
末梢神経伝導速度速度:運動・知覚神経伝導速度を正中神経・尺骨神経で行う。ただし、温度補正は、補正後に著しく早い速度に補正後になることがあるので、測定時の皮膚温度の記録にとどめる。 皮膚温度が低い時、数式により温度補正を行う方法があるが、この方法は時に正常値よりはるかによい値になることがあるので、採用しない。従来の報告では振動障害では末梢神経の伝導速度が遅延するとする報告が信じられていたが、検査時にエルゴメーターにより運動負荷を行い皮膚温度を上昇させた後では、伝導速度の遅延は見られなかったことから、伝導速度の遅延は、皮膚温度の低下を反映しているにすぎないとする報告がある[6]。今回の測定は、低い皮膚温度に対して上半身を電気毛布でカバーすることにより、手指の皮膚温を30℃以上に達してから測定することにする。
Neurometerによるcurrent pereption threshold (CPT) 測定
CPTの意義
客観的な感覚機能評価方法としてニューロメーターによるCPT測定がある。この装置派は2000、250、5Hzの周波数で0~10mAの電流を流し、感覚閾値を調べる方法である。測定法にはauto-mode法とrapid法とがある。前者による測定は被検者、検査側ともに負荷されている刺激の強さに対し、ブラインドの状態で、かつ、被検者の反応が一定するまで刺激が繰り返されることにより、信憑性を高める工夫がされた検査法であり、したがって被検者の協力がないと検査時間は長くなる。結果は刺激の強さがmAで示される。rapid法はforce choice methodであり測定時間の短縮が可能である。
CPT採用の目的:
①糖尿病では広く臨床応用されており、その有用性を肯定する論文が多いが否定的な論文もある。整形外科関係ではCPTの有用性を否定する文献はみあたらない。振動障害の分野では国際的にも文献は極めて少なく、わが国においては山陰労災病院の論文のみである[7]。したがって、CPTの測定が振動障害の末梢神経障害の有無および程度の評価に有用であるか否かを検討する価値はあると考える。カナダの論文で、CPTは結果はストックホルム分類と相関しなかったと報告した論文がある[8]。
②CPTに及ぼす加齢の影響については諸説があり、この点を明らかにすること。
③CPTの値から、振動障害の末梢神経障害の地位を頚椎性疾患、絞扼性神経障害、糖尿病の末梢神経障害と比較検討すること。
④感覚機能を1個の検査項目で評価するよりも、複数の項目で総合的に判断することが、より診断精度を高めるため、振動覚閾値とCPTの併用で診断制度が、どの程度高められるか確認すること。
今回のプロジェクト研究で除外した項目
研究プロジェクトチームの研究者会議で検討結果、以下の点が決議された。決議にあたっては、産業衛生学会の振動障害研究会が、この春に「振動障害検診項目見直し検討委員会」を発足し、その動きから、痛覚閾値測定が省略される方向で、また冷水負荷後の感覚閾値の測定も省略される方向で検討されつつあること、現在の各労災病院が経営的におかれている立場、検査技師の立場から、多くの検査項目を採用でないことを考慮した。
①痛覚閾値検査:客観性のあるデーターを得ることが困難な点から除外する。
②ヨーロッパで行われている温冷覚閾値検査は予算の関係から除外する。
③感覚閾値に及ぼす皮膚温の影響は、現在、方法論が確率していないが、山陰労災での基礎的実験では、低い皮膚温の皮膚温の作成は人工気候室の室温を下げ、薄着をすることにより可能であるが、人工気候室を持たない施設では困難であること、生体に及ぼす影響がかなりあること、測定に時間がかかること等から、臨床病院での実験的測定項目とっしてふさわしくないと判断し、研究項目から除外した。
現段階では、FSBP%測定時は室温21±1℃の部屋で測定するので、その時に皮膚温が著しく低い場合、振動覚閾値、CPTの再測定を行う事とする。結論:ISO基準に従って皮膚温は27℃以上とする。