職業性外傷
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進歩を続ける手の外科
2008年度の研究を基に作成された情報です。

 20世紀初頭にアメリカで産声をあげた手の外科も、二つの世界大戦をへて20世紀の後半に多くの進歩を成し遂げました。手の解剖に対する知識の進歩とその損傷の特殊性に対する理解が進み、戦傷や労働災害による損傷手に多くの再建法が確立されています。
 この20世紀後半の最も画期的な出来事は何といってもマイクロサージャリーの出現につきます。切断指再接着に始まり多くの遊離組織移植が開発され、手の外科や再建外科の世界に大きな進歩がもたらされました。当初は限られた施設でしかできなかった切断指再接着も現在では多くの施設で行われるようになりました。また、骨肉腫などの骨の悪性腫瘍はその多くが10代の子供に発生しますが、かつては患肢切断がやむを得なかった症例でも、組織移植によって患肢温存と機能的再建が可能となりました。これらの手術も開発以来30年以上が経過し、多くの症例の長期成績が検証されております。
 80年代から登場した新しい治療概念に、最小侵襲手術というものがありますが、これは従来は大きく切開して展開していた手術を内視鏡や特殊な補助器具を使用して、小さな傷で周囲組織の損傷を最小限にしながら手術を遂行するという概念です。整形外科領域ではその代表が関節鏡手術ですが、当初は膝関節に始まった関節鏡手術も現在は手関節(手首の関節)やその他の小さな関節にも応用が進められており、当科でも骨折や靱帯損傷などの手術に手関節鏡を使用し確実な診断と正確な手術を行うように心がけております。内視鏡下の手術は関節外でも広く行われ始めており、今後も発展が期待されます。

基礎実験の臨床への応用


1.屈筋腱修復に関する知見の集積と臨床応用

 屈筋腱(指を曲げる腱)の治療(用語解説参照)は、癒着との戦いであり、縫合直後から早期運動療法を行うための各種の基礎的データが動物実験などにより集積されてきました。まず、屈筋腱自体が周囲からの癒着を起こさずとも腱自体の修復能力で十分に治癒することが証明され、続いて屈筋腱縫合後の組織修復の過程が経時的に詳細に検討されました。さらに各種の強固な縫合法および縫合材料が開発され、現在では縫合直後から自分の力で指を曲げても大丈夫なほどの縫合強度を持つ各種縫合法が用いられています。また、術後は屈筋腱縫合後の縫合部強度の計時的な変化を反映したリハビリプログラムが施行されています。今後は腱の治癒過程を促進する方法の検討が必要となりますが、分子生物学の進歩によって可能となった、組織成長因子の投与などが動物実験レベルで検討され始めています。

 

2.末梢神経損傷に関する知見の集積と臨床応用

 神経損傷において解決しなければいけない問題点として、1) 正確な神経再生路の獲得、2) 神経欠損の修復法の確立、3) 損傷近位部が利用不可能な場合の修復法の検討、などがあげられます。

1)に関しては直径数mmの神経でもその内部には数千本の神経線維が含まれておりそのそれぞれが運動神経であったり、知覚神経であったりと異なった性質を持っており、最終的に到達すべき終末器官もそれぞれ異なっています。手術用顕微鏡で縫合しても直径数ミクロンの神経線維一本一本を全て正確に接合することは不可能で、間違った方向への神経線維の再生(misdirection)が生じてしまいます。運動線維と知覚線維の識別や神経断面の正確な観察による神経束パターンの適合などによってある程度は解決可能ですが、misdirectionを極力少なくする縫合法の開発は今後も検討が必要です。

2)に関しては、直接修復不可能な神経欠損に関しては、自家神経移植(用語解説参照)が一般的に行われていますが、移植神経採取部の知覚脱失や神経種形成の可能性などドナー神経採取に関連する問題があります。これを回避するために、人工神経の開発などが行われています。

3)に関しては腕神経叢引き抜き損傷(用語解説参照)などで、損傷近位部の神経が使用できない場合、他の健常な神経の一部を末梢の神経断端に縫合するいわゆる変則的神経縫合が行われてきました。例えば肋骨の下にある肋間神経を上腕ニ頭筋の支配神経に縫合して肘の屈曲を再建したり、健常な神経の一部を損傷遠位部の神経断端に縫合して運動を再建するといったことが行われています。これは、人体の本来の機能を作りかえるわけで、自然の摂理に逆らった手術とも考えられますが神経損傷の近位部に利用できる神経が限られている場合には有効な再建方法であり、最近は安定した成績が得られるようになってきています。近年、実験的に末梢神経再生路の詳細な検討が行われ、健常神経の横に損傷された神経の遠位部を縫合するようないわゆる「端側吻合」でも有効な神経再生が獲得されることが明らかになっており臨床でも応用されています。

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