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2008年度の研究を基に作成された情報です。

四肢切断、骨折等の職業性外傷分野


職業性外傷研究センター
主任研究者 松崎 浩徳 ;燕労災病院整形外科部長


【説明】職業性外傷は、産業現場での機械への巻き込まれや高所からの墜落、転落により生じ、四肢の挫滅、切断、骨折という重篤なものが多い労働災害です。
 そこで、製造現場や建設現場等で手及び上肢の重度外傷(切断や挫滅損傷)を負った勤労者の労働能力の回復を図り、早期職場復帰に繋げるため、上肢重度外傷の治療成績を向上させることを目的として、1)過去の重度外傷症例の治療法の検証と2)損傷重症度と被災労働者の職場復帰状況及び長期治療成績との関連を調査することにより、部位別、重症度別の適切な治療方法の研究開発を行っています。
 なかでも、部位としては上肢から指先にかけての損傷が多く、特に手の外傷の場合、皮膚・軟部組織・神経・腱・血管・骨という複数組織が同時にかつ広範囲に損傷するケースも少なくありません。そうした重度の損傷を負った受傷者が、手術後5年以上経過した時点でどのように回復されているかを研究しています。

 今回は、その研究の中間報告をまとめてみました。
【研究目的】
【対象症例の概要】
【研究分析】
【考察】
【学会発表・論文等】
【用語解説】

『上肢の重度障害に対する治療法についての調査研究と治療法の検討 −受傷労働者の円滑な職場復帰を目指して−』
【研究者一覧】
  松崎 浩徳    職業性外傷研究センター長(主任研究者)
  成澤 弘子    新潟手の外科研究所 研究員(共同研究者)
  三輪 仁       県立新発田病院 整形外科部長(共同研究者)
  登石 聡       燕労災病院 第二整形外科部長(分担研究者:H19.9.30付け退職)
  畑中 均       九州労災病院 手の外科部長(分担研究者)
  益田 泰次    中国労災病院 関節整形外科部長(分担研究者)
【研究目的】
 職業性上肢外傷の重症度と受傷範囲、損傷形態などによってスコアー化し、その機能的予後と対比させることにより、重症度スコアーと術後成績および職場復帰レベルとの相関を明らかにすることを目指しています。
 もし、予測が可能となれば、受傷時に、将来の機能の程度及び職場復帰の可能性についての情報を職場に伝え、職場復帰を円滑に進めることができるようになります。
【対象症例の概要】
 労働災害による上肢損傷例のうち、切断や挫滅損傷のように神経や血管損傷を含み、マイクロサージャリー(手術顕微鏡装置)による再接着や血行再建および遊離組織移植による再建が必要であった重度損傷手を対象症例としました。
右母指切断に対する再接着
右母指切断に対する再接着
【研究分析】
 これまでの手および手指切断後の再接着成功例187例、挫滅損傷後の再建術成功例141例のうち、受傷後5年以上経過した82例について、呼び出し調査に応じ、直接検診が可能だった50例について、X線写真撮影、知覚評価、手指可動域計測、サーモグラフィーによる手指温計測などを行い、手指総合機能を「玉井の評価基準」および簡易型DASHスコアで評価しました。また、復職時期や職場復帰レベルなどの社会的側面に関してもデータ収集を行い、受傷時の記録を参照することによって、損傷重症度や損傷形態を評価し、HISS(損傷重症度の包括的指標)によるスコアリングを行い、重症度スコアと機能回復や職場復帰レベルとの相関に関しての検討も行いました。
【考察】
 これまでの検討結果から以下の点が明らかとなりました。

  1. 受傷時の損傷レベル、損傷指数、損傷形態、重症度スコアから、玉井の評価基準による治癒後の手の機能の予測が可能であること。
  2. 切断・不全切断などの重度損傷手においては、皮膚、骨、腱、神経などを全て修復しなければならないが、損傷組織別の最終成績への影響は皮膚及び神経損傷の順に大きく、これらの組織修復が機能回復上重要であること。
  3. 受傷時の包括的重症度スコアから、治癒後の職場復帰の状態(原職復帰、職種変更、就労不能)を予測可能であること。
 上記のような予測が可能となることにより、受傷労働者の職場復帰を円滑に進めることができると考えられます。
【学会発表・論文等】
*学会での発表状況
平成18年度
  • 術後22年経過した両側Wrap Around Flapの1例
    燕労災病院整形外科
    宮崎 義久、 松崎 浩徳、 登石 聡、 武田 宏史、 玉川 省吾
    第33回日本マイクロサージャリー学会 20006年10月 奈良
  • 母指切断に対して行ったWrap Around Flapと再接着症例の長期成績の検討
    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡、 宮崎 義久、 武田 宏史、 玉川 省吾
    新潟手の外科研究所
    成澤 弘子
    第33回日本マイクロサージャリー学会 2006年10月 奈良
  • 職業性の挫滅損傷及び外傷性切断に対する再建術及び手術後の可動範囲拡大についての研究・開発・普及(第一報)
    −手指切断および不全切断における重症度および損傷形態の機能回復ならびに職場復帰に対する影響

    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡
    新潟県立新発田病院整形外科
    三輪 仁
    新潟手の外科研究所
    成澤 弘子
    第54回日本職業災害医学会  2006年11月 横浜
  • 異所性再接着(transpositional replantation)による手指機能再建
    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡、 宮崎 義久
    新潟手の外科研究所
    成澤 弘子
    第21回東日本手の外科研究会 2007年1月26日 東京
平成19年度
  • 手指切断や不全切断における重症度および損傷形態の機能回復ならびに職場復帰に対する影響
    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡
    新潟県立新発田病院
    三輪 仁
    新潟手の外科研究所
    成澤 弘子
    第50回日本手の外科学会学術集会 2007年4月19、20日 山形
  • 手部挫滅創に対する逆行性前腕皮弁〜緊急手術での一期的再建〜
    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡、 高田 真一、 松本 英彦
    第18回新潟関節外科研究会 2007年6月23日 岩室温泉
  • Predicting Functional Recovery and Return to Work after Mutilating Hand Injuries: Usefulness of Hand Injury Severity Score
    Hironori Matsuzaki1, Hiroko Narisawa2, Hitoshi Miwa3, Satoshi Toishi1
    1Department of Orthopaedic Surgery, Tsubame Rosai Hospital
    2Niigata Hand Surgery Foundation
    3Department of Orthopaedic Surgery, Niigata Prefectural Shibata Hospital
    62nd Annual Meeting of the American Society for Surgery of the Hand, September 27-29, 2007, Seattle, Washington
  • 職業性の挫滅損傷及び外傷性切断に対する再建術及び手術後の可動範囲拡大についての研究・開発・普及(第二報)
    −手指重度外傷に対する各種治療戦略と成績の検討

    燕労災病院整形外科
    松崎 浩徳、 登石 聡
    新潟県立新発田病院整形外科
    三輪 仁
    新潟手の外科研究所
    成澤 弘子
    第55回日本職業災害医学会  2007年11月 名古屋
*論文
  • 両側遊離鼡径皮弁を用いて初期治療を行った手関節以遠デグロービング損傷の2例
    松崎 浩徳*、 三輪 仁**、 成澤 弘子***、 登石 聡*
    *燕労災病院整形外科、 **新潟県立新発田病院、***新潟手の外科研究所
    臨床整形外科 42: 587-592, 2007
  • 母指切断に対して行ったWrap Around Flapと再接着症例の長期成績の検討
    松崎 浩徳*、 成澤 弘子**、 登石 聡*、 宮崎 義久*、 吉津 孝衛**
    *燕労災病院整形外科、 **新潟手の外科研究所
    日本マイクロサージャリー学会会誌20:339-344, 2007
  • 術後22年経過した両側Wrap around flapの1例
    宮崎 義久*、 松崎 浩徳*、 登石 聡*、 武田 宏史*、 玉川 省吾*、 吉津 孝衛**
    *燕労災病院整形外科、 **新潟手の外科研究所
    日本マイクロサージャリー学会会誌 20:97-102, 2007
  • 異所性再接着(transpositional replantation)による手指機能再建
    松崎 浩徳*、 成澤 弘子**、 登石 聡*、 三輪 仁*** *燕労災病院整形外科、 **新潟手の外科研究所、 ***新潟県立新発田病院 整形・災害外科 51:97-105, 2008
  • 手指切断および不全切断における重症度および損傷形態の機能回復ならびに職場復帰に対する影響
    松崎 浩徳*、 成澤 弘子**、 登石 聡*、 三輪 仁***
    *燕労災病院整形外科、 **新潟手の外科研究所、 ***新潟県立新発田病院
    日本手の外科学会会誌 24:124-129, 2007
【用語解説】

切断:指や手などが労働災害などの外傷によって完全に切り離された状態。マイクロサージャリーの技術によって再接着(切断された組織をつなげること)することが可能ですが、切断組織の血行を早期に再開するために緊急に手術を行うことが必要です。

再接着:切断された指などに、マイクロサージャリーによる微少血管吻合を行って血行を再建し、血の通った生きた組織として生着させること。通常、骨接合、腱縫合、神経縫合、血管吻合(動脈、静脈)というステップを要し、術者には骨、腱、神経、血管それぞれの手術に精通していることが求められます。マイクロサージャリー技術の進歩により今日では指尖部の極めて細かい血管(直径0.5o以下)も吻合可能となり、再接着の適応は拡大しつつあります。
血行再建:不全切断指(肢)に対して、動脈や静脈を修復することによって、末梢の血行を再建し、組織壊死のリスクを回避すること。基本的には再接着手術に準じた手術となりますが、残存組織を温存しつつ骨接合、腱縫合、神経縫合そして血管吻合を行うため、再接着手術より難しくなることもあります。

マイクロサージャリー:手術用顕微鏡を用いて、細かな神経や血管を操作する手術。手の外科領域では直径0.5oから3o程度の血管や神経を縫合する技術が必要となります。この手術手技によって切断指(肢)再接着や遊離(複合)組織移植が可能となりました。

遊離(複合)組織移植:外傷や腫瘍切除(主として悪性腫瘍)の後に生じた組織欠損の再建のために身体の他の部位の組織を血管(動脈、静脈)付きで移植すること。腎移植などは他人の組織や器官を血管付きで移植しますが、遊離組織移植では自分の身体のある部分の組織を他の部位に移植します。具体的には皮膚、筋肉、骨などをそれらの栄養血管(動脈と静脈)とともにいったん身体から切り離し、採取部から離れた欠損部に移動した後に、血管吻合を行って生着させます。
 遊離組織移植で血行のある組織の移植が可能となったことによって、それまでは切断を余儀なくされていた、骨髄炎や悪性腫瘍切除後の広範囲骨欠損などの患肢温存(切断せずに罹患肢を温存すること)が可能となりました。

 

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