胸腰椎の骨折・変性疾患とは
胸腰椎の骨折・変性疾患について
メタボリック・シンドローム(略称:メタボ)はよく知られた言葉ですが、ロコモーティブ・シンドローム(略称:ロコモ)という言葉はご存じでしょうか?「運動器障害」を意味する言葉で、骨・関節・筋肉・神経などの疾患・障害が含まれます。現在の日本では高齢化社会を迎え、高齢者(65歳以上)の方が「要介護・要支援」となる原因や、「寝たきり」となる原因としては「ロコモ」の方が「メタボ」よりも多くなりつつあります。特に女性ではその傾向が著明です。
このため、脊椎の変性疾患(老化現象による疾患)も増加しつつあります。首(頚椎)では、これまでに述べましたように、脊柱管狭窄症(神経の容器が狭くなること)による脊髄障害(頚椎症性脊髄症)や、これに転倒など外力が加わったことによる脊髄損傷(非骨傷性頚髄損傷)があります。これらは最悪の場合には、完全四肢麻庫(手も足も動かない)や、呼吸障害で生命にかかわる状態ともなりえますので、脊椎の変性疾患による機能障害としては最も重度な障害を残すものといえます。
一方、腰(腰椎)の場合は最悪の場合でも両下肢麻痺なので、車イス生活は可能です。しかし、腰椎の場合には頚椎のような脊柱管狭窄症のみならず、骨軟骨症(腰椎の関節変形)や、圧迫骨折・破裂骨折などが加わりますので、一人一人の障害は軽度でも、障害を残す方は脊髄損傷に比べて数多くみえます。
脊椎圧迫骨折・破裂骨折
「脊椎圧迫骨折は急増中」
脊椎の椎体(前方部分)がつぶれる骨折です。椎体とは脊椎の前方部分で、体を支える部分です。圧迫骨折とは椎体の前方の壁が割れる骨折で、脊髄(神経)には影響しません。破裂骨折は椎体の前方の壁だけではなく、後方の壁も割れる骨折で、脊髄症状(麻痺、シビレ、脚の痛み)を生じえます。これらは胸椎下部~腰椎上部に多く発生します。
脊椎圧迫骨折は加齢とともに骨粗鬆症(骨がもろくなること)の方が増えますので、高齢者の約40%に存在するといわれています。脊椎圧迫骨折の新規発生患者数は年間30万~100万人といわれています。しかも、脊椎圧迫骨折を生じた方が、再骨折する確率は2年以内で約40%といわれています。しかしながら、これらのデーターは男性に関するものはいまだ不十分です。
「脊椎圧迫骨折は癒合しないことがある」
高齢化社会の中で、この骨折の治療に関して問題となっていることは、骨折が癒合しないことが約10~15%もあることです。骨折が癒合しないことを「偽関節」といいますが、これは元々はひとかたまりであった骨が2個以上に分かれてグラグラ動く状態と考えてください。脊椎の前方部分の重要な機能は「体を支えること」ですから、ここが偽関節となれば、「起き上がるときや起きているときに腰が痛む」ということとなります。症状の程度はさまざまですが、偽関節化した方の約半数は我慢できないような腰や脚の痛み、あるいは脚の麻痺を生じます。このような場合に有効な薬はないので、「医者がくっつける」=「手術する」ということとなりますが、治療は困難です。
腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症
「腰椎椎間板ヘルニアも高齢化社会の中で変化中」
ほとんどの方が腰椎椎間板ヘルニアという病名はご存じのはずです。しかしながら、この疾患を正しく理解している方は少ないと考えます。症状からみた場合、典型的な腰椎椎間板ヘルニアは腰痛よりも下肢痛が主な症状であり、中には腰痛がまったくない患者さんもみえます。また、椎間板は加齢とともにスリ減って無くなっていくものなので、高齢になればなるほど疾患としては減っていきます。ですから、典型的な腰椎椎間板ヘルニアは若い人の疾患です。しかしながら、高齢化社会の中で、昔は少なかったタイプの腰椎椎間板ヘルニアが増えています。一つは腰椎の上の方にできるヘルニアであり、もう一つは脊柱管(神経の容器)の外にできるヘルニアです。この二つのタイプのヘルニアは典型例に比べて患者さんの年齢は明らかに高めです
「腰部脊柱管狭窄症は急増中」
数年前に有名な芸能人(司会者)が手術を受けて、世間で知られるようになった病名です。加齢によって、脊椎の関節が変形したり、ズレたり、骨そのものが変形した結果として脊柱管(神経の容器)が狭くなったものです。高齢化社会の中で、この疾患は急増中です。この疾患の症状として特徴的なものは「下肢痛のために長い距離が歩けない・速く歩けない」という症状で、「間欠性跛行」と呼ばれています。この疾患も高齢化社会の中で、昔は少なかったタイプの腰部脊柱管狭窄症が増えています。一つは高度な変形、特に後弯(いわゆる「猫背」)を伴った腰部脊柱管狭窄症であり、もう一つは脊柱管の外(神経の出口)に生じた狭窄症です。これらのタイプの腰部脊柱管狭窄症は通常のものに比べて、保存療法の効果が少ないのみならず、いざ手術となると大手術となります。さらに、通常のものに比べて患者さんの年齢は明らかに高めです。
前にも述べましたが、胸腰椎の骨折に関しては、何歳の人にどれくらいの割合で存在するのか、男性に関するデーターはいまだ不十分です。変性疾患に関しても、何歳の人にどれくらいの割合で存在するのか、男女ともにデーターはいまだ不十分です。