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脳血管障害リハビリテーション患者における早期職場復帰要因の検討

脳血管障害リハビリテーション患者における早期職場復帰要因の検討
―労災疾病等13分野研究・開発・普及事業における「職場復帰のためのリハビリテーション」より―」

徳本 雅子1)、甲斐 雅子1)、豊田 章宏1)、豊永 敏宏2)
1)独立行政法人労働者健康福祉機構中国労災病院リハビリテーション科
2)独立行政法人労働者健康福祉機構九州労災病院勤労者予防医療センター

要旨:
独立行政法人労働者健康福祉機構が担う労災疾病等13分野研究「職場復帰のためのリハビリテーション」より、復職の時期には発症後3~6ヵ月と、発症後1年半との2つのピークがあることがわかった。これまで脳血管障害者の復職時期に関する報告は少なく、復職時期の影響要因は明らかとなっていない。そこで、復職時期の影響要因を明らかにすることを目的とした。
対象は、発症後1年半以内に復職可能であった132例である。復職支援や身体・精神機能等全39項目を調査項目とし、入退院時、または発症後1年半に調査を行った。対象を、発症後6ヵ月以内に復職した88例(早期群)、発症後6~18ヵ月以内に復職した44例(遅延群)に分け、39項目を2群で比較検討した。
その結果,早期群は遅延群に比してADL能力か高いこと、易疲労性かなく復職に十分な体力があること、医療機関の復職支援があったことがわかり、特に医療機関の復職支援が強く復職時期に影響していることがわかった。今後、早期リハの実践と復職支援をいかに行っていくかが課題である.

(日職災医誌, 58:240―246, 2010)

はじめに

労災病院群にとって、社会復帰、職場復帰(以下復職)は1つの大きなテーマであり、多様な復職に関する研究を行ってきた。労災疾病等13分野研究「職場復帰のためのリハビリテーション」の研究結果によると、脳血管障害者の発症後1年半以内の復職率は諸家の報告と同等の約40%であった。復職可能群は復職不可能群と比較し、1)治療開始が早く、在院日数が短い、2)初期評価時のBIなどでADL能力が高く、退院時MMSEなどで認知能力、ADL自立度が高い。3)上肢・下肢機能ともに実用肢が多く、高次脳機能障害の合併率が低い。4)職業的地位が高く、ホワイトカラーが多い。という特徴を示した。また、復職時期には発症後3~6ヵ月、発症後1年半の2つのピークが認められた。これまで,復職可否に関する報告はみられるものの復職時期に関する報告は少なく、復職時期の影響要因は明らかとなっていない。発症後1年半にピークがあるのは傷病手当金の期限が切れることが影響していると思われるが、その他の影響要因,特に発症後3~6ヵ月と早期に復職を可能にする要因は何かを探ることを目的とし、復職可能群を復職時期のピークをもとに2つの群に分け比較検討を行った。

対象

2005年2月から2006年7月まで労災病院21施設で加療された脳血管障害例464例のうち、労働年齢(15~64歳)で発症時に就業しており(351例)、かつ発症後1年半以内に復職可能となった132例(38%)を本研究の対象とした。対象のうち、発症後6ヵ月以内の早期に復職可能となった88例を早期群,発症後6~18ヵ月以内に復職可能となった豺例を遅延群に分類した。

方法

労災疾病13分野研究で収集されたデータを用い,身体機能・精神機能12項目、合併症5項目、社会的要因11項目、本人・家族の医師に関する3項目、復職の支援に関する8項目、全39項目について両群間で比較検討した。なお、全39項目について表1に示す。

表1 両群を比較した39項目

身体機能・精神機能 社会的要因
リハ開始時BI
退院時BT
退院時m-RS
上肢機能
下肢機能
歩行機能
退院時MMSE
失語
失行
失認
リハ開始までの日数
クリニカルパスの導入
年齢
性別
配偶者
勤続年数
通勤時間
経済的理由
会社からの復職に関する期待
役職
主な業種
退院時の雇用状況
就業形態
合併症能 復職の支援に関する項目
知能障害
注意障害
記低障害
易疲労性
肩関節亜脱臼
医療機関の復職に関する支援
職場の環境調整
職場の上司との連携
産業医との連携
職業リハ関係者との連携
入院中のMSWの関わり
入院中の職業リハ
医師から本人への働きかけ
本人・家族の意志に関する項目
退院時の家族の復職に対する意識
退院時の本人の復職希望
社会的無所属の不安

統計分析

両群の評価項目をt検定またはx2乗検定により比較した。なお、有意水準は5%未満とした。さらに、両群間の比較において有意差を認めた項目を独立変数、復職時期(早期・遅延)を従分析を実施した。

結果

1.両群の評価項目の比較
有意差を認めた項目は、1)リハ初回評価時BI、2)クリニカルパスの導入、3)易疲労性、4)社会的無所属の不安,5)医療機関の復職に関する支援の5項目であった.
1)リハ初回評価時BI
早期群の平均点は71.9±30.5点、遅延群の平均点は59.3±35.4点と、早期群ではリハ開始時BIの得点が高く、遅延群では得点が低い傾向にあった(p= 0.049).
2)クリニカルパスの導入
早期群ではクリニカルパスを導入した例が多く、遅延群では導入していない例が多かった(p= 0.035).また、クリニカルパス導入例は129例中33例(25.6%)と全体的に少なかった.
3)易疲労性
早期群では易疲労性ありが少なく、遅延群では易疲労性ありが多かった(p = 0.047).
4)社会的無所属の不安
早期群では不安ありが少なく、遅延群では不安ありが多かった(p=0.010).
5)医療機関の復職に関する支援
早期群では支援があったとした例が多く、遅延群では支援がなかったとした例が多かった(p=0.018). なお、豊永らの報告より脳血管障害者の退院時の復職可否に関連がみられた年齢、リハビリ開始までの日数,MMSE、業種、役職、患者や家族の復職の意志において、また発症1年半後の復職可否に関連がみられた年齢、退院時BI等の項目において復職時期との関連はみられなかった.

2.ロジステイック回帰分析
両群で有意差を認めたリハ初回評価時BI、クリニカルパスの導入、易疲労性、社会的無所属の不安、医療機関の復職に関する支援の5項目を独立変数、復職時期を従属変数としてロジステイック回帰分析を実施した。(表2)
復職時期には、リハ初回評価時BI(オッズ比:0.972).医療機関の復職支援(オッズ比:0.252)の2項目が影響しており、さらに医療機関の復職支援のオッズ比が高いことから、医療機関の復職支援の有無が復職支援に強く影響していることがわかった。

考察

今回の調査より、1)発症早期よりADL能力が高いこと、2)復職に適応する十分な体力があること、3)医療機関の復職に関する支援があることが早期復職可能要因であることかわかった。なおクリニカルパスの導入が有るほうが復職しやすいという結果が得られたが、データ収集時は脳血管障害に対するクリニカルパスの導入例が少なかったため復職時期の影響要因としては説得力に欠ける。しかし、脳血管障害の地域連携クリニカルパスが診療報酬で点数化された現在ではクリニカルパスの普及がいっそう進んでおり今後再度検討していく必要があると考える。また、社会的無所属の不安が有るほうが復職が遅延するという結果か得られたが、これは遅延群は早期群と比較して重症度が高く復職するためにより多くのプロセスを踏む必要があるためではないかと考える。
ロジステイック回帰分析の結果より、3)医療機関の復職に関する支援が復職時期に特に強い影響を与えていたことから、早い段階から医療機関が復職支援を実施していくことの重要性が再認識された。早期より機能評価に加え復職の評価を実施し、具体的な仕事内容を把握することで復職に必要な作業能力に対するアプローチを行うことが可能となるであろう。
また、豊永らの報告1)2)より、脳血管障害例が欲しかった復職支援として主に職業リハとの連携・産業医との連携が挙げられたが、実際に連携があったのはどちらも2割に満たないほど少なく(図2、図3)、復職支援が充実しているとは言えないのが現状である。医学的リハと職業リハとの連携は円滑とは言えない状況にあり、古澤らが述べるように適応となるものに対しても十分に受ける機会が与えられていない.さらに古潭らの調査によると、実際に職業リハの連携に対する援助をしたことがあるのは16%であるという現実がある。その理由としては、在院日数の短縮が進むことにより、「担当する期間か短い」、転院調整等日々の業務に追われており「業務に余裕がない」等が挙げられている11)。これは急性期病院のリハビリテーションスタッフに関しても同じことであり、限られた期間で行える業務には限界があり復職まで関われないことによって、復職支援に対する経験不足、理解不足が生じている。これらの対策として、MSWは「自分たちが窓口となる」,「職業リハに対する知識・向上を目指す」といった前向きな回答をしていることは明るい材料である。また、充実しているとは言えない中でも、13分野研究では職業リハや産業医、MSWと連携していたほうが復職しやすい2)という結果が得られており1)2)今後それらの充実が望まれる。
各施設の機能分化が進み、急性期、回復期、維持期というプロセスをたどっていく中で、転院や退院により環境が変わっても復職に関して一貫した支援を行える存在が必要とされ、それを担っていく復職コーディネーターの育成が急務である2)5)6)。今後、早期リハの実践と復職コーディネートをいかに適切に行っていくかが今後の労災病院群の課題であろう。

表3 復職時期を目的変数としたロジスティック回帰分析

因子 有意確率 オッズ比 オッズ比の95%信頼区間
下限 上限
リハ初回評価時のBI 0.000 0.972 0.958 0.987
医療機関の復職支援 0.031 0.252 0.072 0.882
優位性の無い変数 有意確率
易疲労性 0.808
クリニカルパスの導入 0.205

図1 復職率の経時的変化2)
復職率の経時的変化

図2 産業医との連携2)
産業医との連携

図3 職業リハとの連携2)
職業リハとの連携

表2 復職時期(早期群・遅延群での比較)

文献

  1. 豊永敏宏:職場復帰のためのリハビリテーション―脳血管障害の退院時における職場復帰可否の要因―。日職災医学誌 56 : 135-145,2008.
  2. 豊永敏宏:脳血管障害者における復職復帰可否の要因―Phase3 (発症1年6ヵ月後)の結果から―。日職災医学誌 57 : 152―181,2009.
  3. 田中宏太佳、豊永敏宏:脳卒中患者の復職における産業医の役割―労災疾病等13分野医学研究・開発、普及事業における「職場復帰のためのリハビリテーション」分野の研究から―。日職災医学誌 57:29―38,2009.
  4. 独立行政法人労働者健康福祉機構:「早期職場復帰を可能とする各種疾患に対するリハビリテーションのモデル医療の研究・開発、普及]研究報告書.2008.
  5. 豊田章宏:職場復帰のためのリハビリテーション―急性期医療の現場から―。日職災医学誌 57 : 227―232,2009.
  6. 深川明世:就労支援における作業療法の技術:障害特性を踏まえた就労計画の立て方:身体障害(脳血管障害)について.0Tジャーナル 43 : 771―775,2009.
  7. 佐伯 覚:脳卒中患者の職場復帰。日職災医学誌 51 :